54歳
現場からの叩きあげで係長から課長に昇格。
怒ると目にでる。 その目でじっと見つめられると、たいがいの者は震えあがる。
戦後のドサクサ時代、神奈川県警にもぐりこみ、横浜近辺が暗黒時代に
突入すると、ハードな捜査にたえられない刑事が続出する中で、
彼はやめるにやめられず、その内、隠れていた闘争本能がむきだしになり、
メキメキ実績をつみあげ、ついには当時の暴力団から、″鬼の卓造″
(通称 オニタク)とまで呼ばれるようになった。
そして今、″愛される神奈川県警″の捜査課長である。
性格はもとの柔和な人柄にもどり、できればもう1ランク上までのぼりつめたいという
人並のサラリーマン根性が顔を出すのだが、警察上部からの指示で捜査方針に
手心をくわえようとすると、敏樹たちにジロッとにらまれるのである。
まったく気の抜けない部下を持ったものだと、日々悩み多き毎日で
頭が痛い生活である。
部下達からは「タヌキ」とよばれている。
「瞳ちゃん、お茶」課長のいつもの鎮静剤。
家に帰れば年頃の2人の娘の父であるが、そんな卓造にもただ一つ秘密がある。
10年前、彼の部下が捜査の途中で爆発現場に遭遇し、失明、セキズイを痛めて
今だに入院しており、近藤は暇があるたびに10年間ずっと見舞い続けているのだが、
その部下の若き人妻といつの間にか思いあう仲になってしまったのである。
誰にも知られない秘かな背徳の恋である。